独立行政法人理化学研究所は、認知症の原因となる脳の神経細胞の変化は、変異性タウタンパク質だけではなく、正常なタウタンパク質の蓄積でも起こる可能性があることを明らかにした。
タウタンパク質とは、認知症の原因物質の1つとされるもので、脳の中枢神経細胞に多量に存在し、神経細胞同士を接続している「軸索(じくさく)」の輸送機能を調節している。ところが、このタンパク質に異常が生じると神経細胞の死を招き、タウタンパク質の異常により、「アルツハイマー型認知症」や「前頭側頭葉変性症(前頭葉、側頭葉を中心に線条体や脳幹での神経変性により、記憶障害よりも性格の変化が見られる病気)」などを発症すると考えられている。
これまでの認知症研究では、マウスに変異型のタウタンパク質遺伝子を導入した認知症モデルが多く用いられてきた。今回、研究グループは、正常なタウタンパク質の蓄積が神経系に対してどのように影響を及ぼしていくかを明らかにするため、脳内でヒト型タウタンパク質が多量に作られるマウスを作製し、加齢に伴う変化を観察した。
その結果、マウスの脳内では、正常な可溶性のタウタンパク質が加齢とともに蓄積され、リン酸化が進み、特に前頭葉の一部で機能に異常があることが推測された。
このマウスの記憶、認知などの行動変化を「若齢期」、「成熟期」、「老齢期」のそれぞれで観察したところ、老齢期には記憶や認知の障害に加え、不安行動を示さなくなる行動異常が見られた。不安行動の低下は、記憶や認知の障害に深く関係する前頭葉や海馬以外にも異常があるということ。
さらに、脳神経活動を調べたところ、正常なタウタンパク質の蓄積が、脳内の特定領域で神経変性とそれに伴う神経活動の低下を招き、タウタンパク質の異常蓄積を原因とする神経変性疾患と同様の症状を引き起こす可能性を示した。
今回の研究では、よりヒトに近いモデルマウスを用いて、老齢期のマウスの脳で局所的な神経活動の低下が起こる様子を追跡。今後、神経変性を引き起こすタウタンパク質の詳細な仕組みを明らかにすることで、認知症などの原因究明が期待される。
■関連記事
・ビフィズス菌がO-157感染予防に効果――理化学研究所ほか共同研究で判明
・理研、人を抱えることができる介護ロボット「リーバ」を開発