東京都消費者被害救済委員会は、昨年12月15日に付託された「有料老人ホーム入居後の死亡に伴う返還金に係る紛争」の審議の経過と経過を東京都知事に報告した。入居金350万円を返還するあっせん・調停案を相手方の有料老人ホーム事業者が拒否し、不調に終わったという内容だった。
紛争の概要やあっせん・調停の内容は以下のとおり。
■紛争の概要
2010年4月中旬、申立人(70代女性)は、ケアマネジャーの勧めで病気療養中の夫の有料老人ホーム入居を決め、契約を締結して、入居金350万円を一括で支払った。しかし、夫は入居して約2週間後に症状が悪化し、緊急入院、5月末に病院で死亡した。
申立人は、有料老人ホームの退去手続きを行い、利用契約書などに記載されている規定に沿って入居金全額の返金を求めた。しかし、相手方の事業者は利用契約書などに「入居金は入居日に一括償還され、返金されない」「入居者が死亡した場合は契約が終了し、解除はできない」と記載しており、90日間のクーリング・オフは適用しないと回答。申立人は死亡の場合もクーリング・オフの規定が適用されるべきと主張したが、相手側は拒否、紛争となった。
■あっせんおよび調停の結果
東京都消費者被害救済委員会の考えは以下のとおり。
1)入居時に、入居金350万円を一括償却する規定は、入居時の必要経費を超える部分は消費者の利益を一方的に害し、消費者契約法第10条により無効。
2)入居金返還に係る90日間のクーリング・オフ規定について、契約解除の場合と死亡による契約終了を区別して対応する合理的な理由はない。
以上の理由より、申立人に「入居金350万円全額を返還すべき」とのあっせん案および調停案を提示。申立人は受諾したが、相手方は拒否した。
相手方があっせん案・調停案を拒否した理由は、?入居金350万円は、消費者契約法の判例から不相応に高額とは思われず、申立人は一括償却により返金されないことを事業者および老人ホーム紹介所のスタッフから説明を受け、承諾した。入居金の返還を求めるのは信義則違反。 ?契約書に、死亡により本契約は終了すると明示されており、終了した契約は解除できないと法律的に解釈している、とのことだった。
おもな審議内容についても報告しており、「入居金を入居時に一括償却するという規定」については、消費者契約法第10条や老人福祉法の理念から信義則に反するとしている。「クーリング・オフを死亡の場合は適用しない」については、利用契約書の規定の仕方が消費者にとって理解し難いこと、全国有料老人ホーム協会作成の標準入居契約書や老人福祉法改正へ向けた動向にも照らすと、「90日規定は、死亡の場合も含めて適用される」と解せるとし、死亡時に適用されないとする相手方の主張は認められないとした。
また、同種・類似被害の再発防止のため、老人ホーム運営事業者と消費者双方に注意喚起もしている。
老人ホーム運営事業者には、今般の老人福祉法改正の趣旨についての理解・配慮を強く望み、契約条項は消費者の権利義務を明確で平易な内容にするべき。契約時には双方に食い違いがないよう、消費者が契約内容を十分理解できるよう説明する必要があるとした。
消費者には、契約にあたり、入居金の目的や償却方法、解約時や死亡時の取り扱いを確認し、利用料の内容や返還規定などを十分調査すること、複数の老人ホームを見学することなど、慎重に契約に臨むことを要望した。