昨年9月にベストセラーズより刊行されて以来、高齢者層を中心に支持され、いまや70万部を超えるベストセラーとなっているのが曽野綾子氏の『老いの才覚』。今年80歳を迎える著者が、自分と同じ高齢者を「年の取り方を知らないわがままな老人が増えてきた」と嘆き、超高齢化社会に向けて必要なのは、老人が「自立した老人になる」ことだと説いている。かなり辛口の提言書だ。
そもそも「老いの才覚」とは何か。
著者によると「老いの才覚=老いる力を持つこと」であり、その力を持つこと、これこそが必要だという。本書では「“自立”と“自律”の力」「死ぬまで働く力」「孤独と付き合い、人生を面白がる力」「老い、病気、死と馴れ親しむ力」など、高齢者にとって必要な“7つの力”が挙げられている。なかでも、自分の力で独立する「自立」と、自分で自分を律する「自律」、この2つの「じりつ」という言葉は、すべてにかかるもっとも重要なカギとなっている。
著者自身、50代を前にして失明の危機、老年になってからは両足の骨折などを体験したのだが、他力を借りることは最小限にとどめて乗り越えてきたという。さらには「どう工夫すれば、身の回りのことが自分一人でできるか、それを考えるのが楽しみでもありました」と語っているから驚きである。とことん辛口であるにもかかわらず、この本が高齢者に受け入れられている理由は、これほどまでに強い精神を持つ彼女が発する言葉だからこそ、一つひとつの言葉に重みを感じるのだろう。そして、ただ厳しいだけではない。自分自身の人生を死ぬまで、いかにおもしろいものにしていくかが大切なのよ、という応援メッセージも込められているからこそ、読者の心をとらえるのだろう。
■書名:老いの才覚
■著者:曽野綾子
■判型・頁:新書・172頁
■定価:800円(本体762円+税)