東京都新宿区は2月8日、「認知症サポーターステップアップ研修」を開催した。本研修は、認知症の症状や対応方法など基礎知識を学んだ認知症サポーター養成講座の修了者を対象に、知識の復習や向上をめざすフォローアップ研修として開かれた。今回は、DVDを視聴や講義を通じて、主に認知症の人を介護する介護者支援にスポットをあて、約40名の認知症サポーターたちが地域での支え合いを考える研修に臨んだ。
まず初めに、認知症患者本人と家族の介護生活を記録した50分に及ぶDVDが上映された。54歳の娘さんと暮らす83歳のSさんは、アルツハイマーと診断されて10年。要介護5の認定を受け、ヘルパーの訪問とデイサービスの介護サービスを受けながら在宅生活を維持している。
Sさんは娘さんの姿がベッド脇から消えると不安がり、「お姉ちゃ〜ん!」と昼夜問わず大声で呼ぶ。深夜でも寝付けないSさんが娘さんと一緒に童謡を何曲も歌った後、「すみませ〜ん!よろしくお願いしま〜す!」と叫ぶ姿が映し出されると、受講者の間にすすり泣きが広がった。
娘さんはSさんが認知症と診断されてから、筆まめだった母に紙とペンを渡したところ、日記をつけ始めた。日記には普段、娘さんの前では口にしない認知症の症状が進むことへの不安や恐怖や、「グチひとつ言わずに介護してくれてありがとう」など感謝の言葉がつづられていた。Sさんは文字を書いたことすら数分後には忘れてしまうが、日記には娘への愛情があふれていた。
その後、入院をきっかけにSさんは、歩行困難や自力の食事摂取など、多くの記憶とともに自立度も失い、日記を書くこともなくなったが、その代わりに娘さんが介護体験をつづった。娘さんは、認知症セミナーなどで母との2人3脚の日々を語り、同じ立場の介護者支援に努めている。
DVD視聴後は、5〜6名ずつに分かれたグループワークで自己紹介や意見交換が行われた。
「こんなに介護に生活のすべてを捧げている娘さんは母亡き後、どうするのだろう」と“抜け殻”を懸念する声や、「娘さんはSさんのデイサービス留守中に内職に励んでいたが、年金頼みで十分な介護が受けられるのか心配」といった感想が聞かれた。
グループワークに続き、認知症の人を介護する家族の支援について、日本社会事業大学准教授の下垣光氏が講義した。
下垣氏は、「認知症はどのように進行するのか確定はできず、3年先、5年先のこれからの見通しが立たない。先が読めない介護生活の中で、家族など介護者は自分自身のこれからは横に置きやすく、特に老老介護では自身の健康管理も怠りがち。
だからこそ、周囲は介護者が倒れないよう支援することが必要だが、実現性に遠い目標を掲げるのではなく、花見に誘ってあげる程度のできることからでいい。認知症サポーター養成講座やステップアップ研修に参加するなど、認知症や介護について自分にできることは何だろうかと考える機会を地域に設けることが重要だ」と語った。
■取材協力
新宿区