東京都が1月27日に開催した2011年度の「テーマ別改善運動」発表会では、患者サービスの向上や経営の効率化を目指した業務改善への取り組みが報告され、全191サークルの中から17の活動が優秀事例として選抜された。会場となった都庁大会議場には、都立病院や公社施設などで患者視点から問題に取り組む職員らが集い、日夜、研さんを積む同職の発表に耳を傾けた。
府中療育センターのサークル“フードプロフェッサー”を代表して登壇した吉田明喜子氏は、施設でのミキサー食作りを応用した「見てわかる!おうちでできる!ミキサー食」と題し、在宅の介護者が手軽に作れるミキサー食作りについて説明した。
重症心身障害児(者)施設の同センターは、利用者のほとんどに何らかの摂食・嚥下障害があるため、これまで状態に即した食事づくりに工夫を重ねてきたが、利用者家族からは「施設で提供されているようなミキサー食の作り方がわからない」といった声が寄せられていた。そこで同センターは、おいしくて安全なミキサー食を家庭で手軽に作る方法について、文章ではなく目てみてわかりやすい、料理の状態が確認できる資料をビデオで作成することにした。
まず同センターと家庭で作るミキサー食を比較してみると、一般的に食事全部をミキサーにかけてしまう家庭での作り方に対し、同センターでは料理を一品ずつミキサーにかけ、胃ろうなどのチューブからも注入できるほどなめらかな、そのまま食べても十分においしいミキサー食に仕上げていた。そこで調理量や調理機器の違いも考慮し、家庭での調理方法を考案した。
例えば肉・魚料理では、同センターでは生の肉や魚に玉ねぎや鶏卵などをつなぎに“蒸し上げた真(しん)じょ風にしたもの”をミキサーにかけるが、こうした手間は家庭では不向きとして「家庭で作った肉・魚料理につなぎに(一緒に料理した根菜類など)野菜を加えてミキサーにかける」といったアドバイスにした。ミキサーにかけるときのポイントも「途中でミキサー容器の周りについたものをヘラで中心に寄せながら、数回に分けてミキサーする」などを盛り込んだ。
作成したビデオは、主催の障害者施設職員やヘルパーを対象にした利用者家族向けの講習会で試写した。また利用者家族約80名を対象に行ったアンケート調査の意見を吸い上げて内容の検討を重ねた結果、1本のビデオにノウハウの全てを盛り込むのではなく、1本10分程度の“導入編・主食編・おかず編”の3部作に分割した。また、介護者である家族からの「メニューが単調になってしまう」「家族の料理がやわらかくなってしまう」といった意見に応え、再編集したビデオではミキサー食には向かないと思われる料理をなめらかにする方法などを取り入れた。
実際に会場では、“鶏の唐揚げ”の調理風景を紹介したおかず編のビデオが流され、「水分が少ないと出し汁を加えたくなるがここではグッとがまん」「唐揚げなど衣を使った料理は、衣が増粘剤の役割を果たすので少量の水分を加えるだけでとろみが出る」などのポイントが紹介された。
吉田氏は、つなぎとして増粘剤を使わない作った鶏の唐揚げを例に、「水分を必要以上に入れていないので味がほとんど変化していない。だからおいしいミキサー食になった」と述べて、食品の持つ性質をうまく利用することをアドバイスした。
「同センター以外に地域でも活用できるよう、今後は利用者家族の意見を取り入れながらさらにビデオの完成度を高めたい」と吉田氏が発表を終えると、食事作りの悩みを知る関係者として、うなずく参加者の姿も見られた。
■取材協力
東京都病院経営本部サービス推進部患者サービス課