東京都は、東京都消費者被害救済委員会からの報告を受け、有料老人ホームの退去に伴う返還金トラブルの審議経過と結果について公表した。
報告によると、認知症の夫を抱えた妻が、介護付有料老人ホームの見学に行くと、“現在キャンペーン中なので通常約500万円だが約350万円支払ったらすぐに入居できる”と説明を受け、2008年9月に入居申込金と入居一時金を一括で支払い、夫を老人ホームに入居させた。2009年3月に夫が入院し治療は長期間になることから4月にホーム側に解約届を提出したところ、入居一時金は特別年齢割引制度での契約なので返還金はわずかしかないこと、2カ月分の管理費などを差し引くと返還金はないことなどを説明された。
特別年齢割引制度は、所定の年齢以上の者を対象にした、特別に安い入居一時金で入居できる制度で、通常の場合よりも入居一時金は安くなるが返還率が著しく低くなる返還表が適用される。
ホーム側は入居契約書には「特別年齢割引」との記載が手書きで加筆してあることから、特別年齢割引制度を70歳代である本件入居者にも適用するという特約が成立するとして、入居一時金の返還を拒否し、妻は、特別年齢割引制度での契約をしたとの認識がないと主張して紛争になった。
今回の紛争では、「入所契約書に手書きで特約として加筆された特別年齢割引制度の適用が成立したとみなすか」が問われたが、“特別キャンペーン”とうたった契約では、同割引制度による特別に安い入居一時金で入居できるというところにだけ注意がいき、仮にホーム側から口頭で説明があったとしても、特約の内容を妻が明確に認識し合意を得たとはいえないとされた。
また契約解除についても、ホーム側は予告期間のない契約解除であるとして、契約規定に基づき2カ月分の管理費などを徴収したが、社団法人全国有料老人ホーム協会が作成した有料老人ホーム「標準入居契約書」は、入居者からの解約について「30日前に解約の申し入れを行うことにより本契約を解約することができる」と定めていることに照らすと、2カ月分は長く、夫の施設での実質的な入居期間などを考慮すると管理費などについて30日分を超えて負担することは相当性を欠き、30日を超える部分については、消費者契約法により無効とされるおそれがあるとした。
その結果、今回の紛争は、ホーム側は妻に対し約133万円を返還することで解決した。
◎有料老人ホーム退去時のトラブル−被害救済委員会結果(11月29日発表)