東京都健康長寿医療センター研究所は11月24日、人間が持つ五感をテーマにした第112回老年学公開講座を開催した。今回は高齢者の代表的な悩みである難聴と嚥下を取り上げ、会場には約300名の高齢者が聴講に訪れた。
「年とともに低下する“聞こえ”とその改善」を講演したのは、同研究所の老化制御研究チーム研究員 柳井修一氏。まず初めに耳で音が聞こえる仕組みを紹介し、耳の図解をスクリーンに映し出しながら、一般的に一言で“耳”と呼んでいるものの外耳・中耳・内耳の3つの部位から構成されていて、空気の振動が蝸牛(かぎゅう)で電気信号に変換されると大脳で音として認識されることを説明した。
「なぜ聴力が低下するか」については、外耳・中耳の“音の通り道”の障害による「伝音難聴」と音を感じる内耳の障害による「感音難聴」の2種類の難聴があり、それぞれ要因も鼓膜損傷や外耳道閉鎖症、中耳炎などによる「伝音難聴」と、蝸牛の有毛細胞の劣化して起こる「感音難聴」で違うことが示された。
柳井氏は蝸牛の有毛細胞劣化の3大特徴として、細胞が壊れても再生しないため、進行した感音難聴は治療不可能であること、高音を担当する有毛細胞から壊れやすいので高音が聞きづらくなり始めること、年齢とともに消耗するため20代から進行することをあげた。
また、一般の健康診断の聴力検査は1種類の音を使用するが、正式な難聴の聴力検査では低音の125ヘルツから高音の8,000ヘルツまでも測れる7種類もの音を使い、蚊が飛んでいるような非常に高い音の“モスキート音”が聞こえるという20代では20,000ヘルツが聞き取れるが、60代ではその半分の10,000ヘルツまで聴力が低下することが示された。ただし、このようなモスキート音のような非常に高い音は、日常生活では不要な音なので何の支障もなく、500〜2,000ヘルツが人の声の範囲だという。
“聴力が低下したらどうしたらよいか”と各地での講演時に多くの高齢者から質問されるという柳井氏は、「聞こえなくなると、いきなり病院以外の補聴器販売店で購入する人がいるが、販売店では医師がおらず耳の状態をチェックできないので、まず補聴器ありきではなく専門医による適切な診断を受けて」と呼びかけ、補聴器の使用を視野に入れるなら補聴器外来のある病院が望ましいが近くに無いようなら、かかりつけ医から大学病院などを紹介してもらうようアドバイスした。
また、難聴への本人や周囲の気づきのポイントとしてテレビの音が大きくなる、聞き返す回数が増えたなどを挙げて、「ゆっくり大きな声で話す、ハッキリ話すなど本人だけでなく周囲の人が“難聴”の問題に目を向けて理解を深め、改善に取り組むことがコミュニケーションを取るうえで重要」と訴えた。