認知症の高齢者は、団塊の世代が全員75歳以上を迎える2025年の時点で全国で約700万人、高齢者全体の約2割を占めると推計されています。
高齢になると、誰もがかかる可能性がある病気ですが、「もしや?」と思ったときに適切な対応をすれば、症状の抑制やその後の介護負担の軽減につなげることができます。
認知症を疑う行動
「物忘れがひどい」「何度も同じことを聞く」など、高齢になると、認知症を疑う言動が目立つようになります。
しかし、高齢になると物忘れが多くなるのは自然のこと。年齢相応の物忘れと認知症の記憶障害は同一ではないことに注意しましょう。
年齢相応の物忘れは、体験の一部を忘れるだけで、物忘れは自覚しているのに対し、体験したこと自体を忘れ、忘れたことを自覚していないのが認知症の記憶障害です。
たとえば、昼ごはんの献立を思い出せないのが年相応の物忘れ、昼ごはんを食べたことを忘れるのが認知症です。
その他の典型的な認知症症状としては、自宅近くで道に迷う、簡単な計算を間違える、今まで好きだったことに関心がなくなる、身だしなみに構わなくなる、それまでと性格が変わったり、怒りっぽくなる、などがあります。
症状にはうつや別の病気が疑われるものもあり、いずれにしても素人判断は危険です。「何だか不安」と感じたら、早めの受診を促しましょう。
早めの診断の重要性
認知症を疑ったら、できるだけ早く専門機関を受診することが大切です。 脳の画像診断を受けることで、正常圧水頭症や慢性硬膜下血腫といった、手術によって改善できる病気が判明することもあるからです。
また、今の医療技術では認知症を根治することはできませんが、認知症の薬を早い時期から服用することで、症状を抑えたり、進行を遅らせたりすることができます。
さらに、家族が認知症への理解を深め、適切な対応を学ぶことで、本人の気持ちが安定し、激しい症状が抑えられることもわかっています。
受診方法
認知症の診療科は、「物忘れ外来」「精神科」「心療内科」「神経内科」などがありますが、「物忘れ外来」を掲げたクリニックが、必ずしも認知症を熟知した専門医とは限りません。
かかりつけ医がいる場合には、認知症専門医に紹介状を書いてもらうことをおすすめします。かかりつけ医がいない場合は、保健所など自治体の相談窓口で専門医療機関を訊ねるか、インターネットで認知症専門医を検索するとよいでしょう。
受診には、家族が同行します。診察では、医師による問診と検査が行われ、主に以下の内容で進められます。
【問診で聞かれること】
- どんな変化が、いつごろからあるか
- 他に気になる症状があるか
- 現在飲んでいる薬があるか
- 肉親の病歴
【認知症の検査】
- 見当識や記憶力などのテスト
- 脳の画像検査
- 血液検査
受診に際し、本人の生活歴や既往症、症状が出始めた時期と症状、現在の物忘れの状況や一番困っていることなどをあらかじめメモしておくとスムーズです。
受診をいやがる親を連れていく方法
本人が認知症だと思っていない場合や、認知症であることを認めたくない場合、受診を促すのはむずかしいものです。無理やり病院に連れて行くことで軋轢が生じる心配もあります。
そのような場合は、あらかじめ病院と相談し、「病院から健康診断の知らせが来たから受診しよう」と声をかけたり、持病がある方なら「違う病気の心配が出てきたから検査をしよう」などと持ちかけるのがよいでしょう。
受診の際には、本人の自尊心を傷つけるような表現は避け、医師に伝えたいことがある場合には本人が見ていないところでメモを渡すなどしましょう。