認知症の介護の経験は、自身が認知症になった際に希望する生活の場に影響を与えると考えられる―。こうした分析結果を、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)がまとめた。認知症の発症時に介護施設での生活を望む人の割合は、経験者の方が有意に高く、日医総研では「認知症の患者と身近に接した経験を通じて、生活を希望する場としての介護施設の存在感が増すことが示唆される」としている。
日医総研は今回、2017年3-4月に民間の保険会社が行ったアンケート調査を分析。調査対象は、40-70歳代の加入者から無作為抽出した5000人で、このうち1557人から有効回答を得た。回答者の平均年齢は61.6歳で、全体の8割近くは女性だった。
過去に認知症の介護をしたことがある人は13.4%、現在認知症の介護をしている人は6.5%で、認知症の患者と身近に接した経験のある人を含めると、認知症の「介護経験」のある人は全体の約半数を占めた。
「介護経験」に着目してアンケート結果を分析したところ、自身が認知症になった際に希望する生活の場については、経験の有無に関わらず、「自宅」が最も多く(複数回答)、統計学的な有意差は見られなかった。一方、「介護専門施設」(有料老人ホームや老健など)の回答率は経験者の方が有意に高く(経験あり:35.7%、経験なし:26.8%)、逆に「医療機関」の回答率は経験者の方が有意に低かった(経験あり:7.0%、経験なし:10.6%)。
また、認知症の考え方については、「認知症は、治療によって症状の進行を抑えたり、改善させたりすることができる」(経験あり:63.7%、経験なし:56.7%)と「認知症になっても、家族や周囲の人の理解や支えがあれば、これまで暮らしてきた地域で暮らすことができる」(経験あり:54.5%、経験なし=40.7%)と回答した人の割合が、経験者の方が有意に高いことが分かった(複数回答)。
日医総研では、「認知症の症状の緩和や重症化の予防、そして実際の生活について、経験前に比べて前向きに捉えられるようになることが示唆されるとしている」としている。