ケアマネの仕事に“学び”をどう生かす? ケアマネ×大学院・座談会(後編)

昨年春からLIFEの運用が本格的に始まり、介護にも「エビデンス」(科学的根拠)の時代が到来しました。また、ケアプランの作成を支援するAI(人工知能)が介護報酬上で初めて評価されるなど、テクノロジーの活用も進んでいます。大学院で学んだことを、介護現場でどう生かすのか―。国際医療福祉大大学院の3人の学生と石山麗子教授による座談会。後編では、今後のキャリアプランについても聞きました。【聞き手・敦賀陽平】

<今回お話を伺った皆さん>

上段左から、鮫島寛大さん(修士1年)、渡辺容子さん(博士1年)
下段左から、大森七さん(博士1年)、石山麗子教授

※前編はこちら

■「もう少し研究の世界を見たい」

―渡辺さんと大森さんは現在、博士課程で学んでいます。修士課程を修了後、さらに学ぼうと考えたのはなぜですか。

渡辺さん もともとは、1年コースの修士で終えようと思っていました。修士の課題研究で、ケアプランの傾向や利用者さんの状態の変化など、自社の事業を再点検するというものがあったんですけど、その時に、研究らしい研究が全然できていないことを再認識しました。「このまま終わっていいのかな?」と考えて、博士課程に進むことを決めました。

大森さん 私も、博士課程に進む気持ちは全くありませんでした。修士1年コースは、修士2年分を凝縮して学ぶので、本当に駆け抜けるように過ぎていって、立ち止まる時間もないほどでした。秋頃、石山先生から「博士課程に興味はないですか?」とお声がけいただいた時に、「もう少し研究の世界を見てみたい」と思ったのが、進学した一番の動機でした。

―大森さんが「駆け抜けるように過ぎていった」とおっしゃいました。鮫島さんは、修士課程に入学してからまもなく1年を迎えますが、この1年を振り返っていかがですか。

鮫島さん 本当に楽しかったですね。いろんな人と話をしました。なかなか出会えないですからね、東京の方とかには。

私は離島で暮らしているので、ネットのニュースを見たり、新聞を読んだりして、世の中の「平均」からズレないように意識しています。40年もこの島にいると、ここの常識が当たり前になるんですよね。だから、みんなと知り合って、いろんな話を聞ける時間は本当に貴重です。「みんな、同じことを考えているんだな」と思って喜んだり、自分の立ち位置を確認したり、なんだか“評価点”をもらっている気持ちになります(笑)。

■地域包括ケアの「ゴール」とは?

石山教授 実は、豪雪地帯から参加している学生もいるんです。リモートで授業を行っているからこそ、鮫島さんのような離島の方ともつながることができるんです。

「地域包括ケア」だから、自分の地域のことだけをわかっていればプロかと言うと、そうではないと思うんです。自分の地域を発展させるには、自分の地域以外の、自分の常識以外のことを知らないといけない。物事は、テーゼとアンチテーゼがぶつかり合ってこそ発展するので、違う常識を知ることが大事だと思います。

コロナだから、文科省がリモートの授業を認めてくれています。通学だったら大学院進学は難しいと思われていた地域の方もリモート通学できます。だから今は、毎週の授業でさまざまな地域のケアマネジャーの話を聞けるんです。「ええ!そうなんですか!」と、私自身もとても勉強になっています。

鮫島さん 私は今、自治会の役員をしていて、津波の時の避難用に、独居の高齢者のリストを作ったんですけど、たった3枚で済むんですよ、この地域って。全員把握され尽くしているんです。これってたぶん、地域包括ケアのゴールだと思います。東京とかだと、ここまでくれば、もう完成ですよね。

でも離島では、その先に問題が潜んでいるんです。「日中、若者がいないから、どうしよう」とか。実は、連絡先を把握することがゴールの地域もあれば、それが途中経過の地域もある。大学院で学んでいなければ、「ゴールって、こんな形でしょう」と決めつけていたと思います。

石山教授 地域包括ケアのゴールは、地域ごとに考える必要があると思います。でもみんな、なんとなく一つのイメージで捉えがちです。授業でディスカッションすると、「地域包括ケアのゴールって、本当に違うんだね」と痛感することになります。

きちんと調べた上で、地域包括ケアを理論として理解すると、「鮫島さんの地域ではそうなんだ」ということを、原理に基づいて考えられるようになります。

―渡辺さんと大森さんは、東京の居宅介護支援事業所でケアマネジャーをされていますが、他の地域の学生とのディスカッションは刺激になりますか。

渡辺さん うちは荒川区で、下町でこじんまりしているんですけど、一緒に学んでいる方の中には、すごく先進的で、すでに適切なケアマネジメントの手法を実践されている地域もあります。そういった話を聞くと、「うちの地域も、もう少し頑張らないと」といった気持ちになるので、その意味でも刺激になりますね。

大森さん 私は、江戸川区で10年以上もケアマネをやっているので、ある程度、信頼関係もできていて、居心地もいいんです。だから、自分の仕事をしているエリア外の人たちとの関わりというのは、すごく刺激になりますし、それを知ることによって、見える景色も違ってきます。鮫島さんが暮らす種子島のように、普段知り得ない地域の生の情報に触れること自体、非常に意義が大きいと感じています。

■「ケアマネの原点に立ち返っている」

―大学院で学んだことを、今後のご自身のキャリアにどのように生かしたいと思いますか。ケアマネとしてのキャリアプランのようなものがあれば教えてください。

渡辺さん 私は、「学びつつ戻しつつ」という風にしようと思っています。さっきも言いましたけれども、自分が勉強したことを、会社や地域の介護従事者に伝えるということをやりつつ、地域の住民の方にも戻したいと考えています。まずは、地域の方を元気にしたいという気持ちが強いですね。さらに自分のライフワークとして、今までぶつかってきたさまざまな問題について、改めて研究したいとも考えています。

鮫島さん ケアマネジメントって学べば学ぶほど奥が深くて、自分の未熟さを痛感しています。おそらく、ケアマネ1年目に戻っていると思うんですよね。日々の煩雑な業務の中で忘れているわけじゃないんですけど、丁寧に、大切に日々を過ごすという“初心”に戻ってケアマネを続けられたら、それで幸せだと思っています。

大森さん キャリアプランに生かすかというところまでは、まだたどり着いていないというのが正直なところです。鮫島さんがおっしゃる通り、本当に、ケアマネジメントの原点に立ち返っていると感じますね。目の前にあることを一つ一つ、丁寧に積み上げていくことの意味を納得できました。だから毎日そうしていきたいと思っています。

ただ、歯科の部分に関わりたいという思いはあります。大学院に進学して、歯科と介護の両方を踏まえた新しい世界があることを知りました。ケアマネの経験、歯科衛生士としてやってきたことを通して、両方を生かした研究を続けていきたいですね。そのために何をすればいいのか、新しいことへのチャレンジに日々もがきながら考えています。

■大学院進学 「悩んでいたら進んで」

―一般のケアマネジャーは、大学院を遠い存在のように感じていると思います。これを読んで、大学院で学びたいと考えているケアマネジャーに一言お願いします。

鮫島さん やっぱり、経験年数が一定以上の方って、もやもやを抱えていると思うんですよね。それが晴れる経験をできるだけでも素晴らしいんですけど、それだけじゃなくて、大人になってから受ける教育って、本当に言葉では言い表せないんですよ。「学びの素晴らしさ」みたいなものを再確認しているというか、入学前に想像したものよりも大きなものを得ている気がしています。

渡辺さん 私も、進学するかどうか本当に悩みました。先生に「70歳でも大丈夫ですか?」とご相談したら、「大丈夫ですよ」と優しくおっしゃったので、出願を決意できました。「思い立ったが吉日」じゃないですけど、「こうしよう!」と決めた時が最善なんだと思います。

やっぱり学ぶって、力になるんですよね。直接関係ないような気がしますけど、毎日の仕事に取り組む力、利用者さんと向き合う力、さらには生きる力にもつながると思います。費用面で二の足を踏む方もいると思いますが、それなりの費用を払って学ぶことで真剣味が増すこともあるので、ある程度、身を切って学ぶことも必要な気もしています。

大森さん 昔ある方に、「できるから悩むんだよ」と言われたことがあります。それ以来、「できないのならば、そもそも悩まない」という考え方が自分の中にあるので、入学を決めてからは早かったです。なので、悩んでいたら、飛び込んでみてください。鮫島さんが「言葉では言い表せない」とおっしゃいましたが、大人になってから受ける教育で得るものは、本当に大きいと思います。

もちろん、ハードルは決して低くはありません。働いている方であれば、職場の理解がなければ進学は難しいでしょうし、家庭を持っていれば、家族のサポートも必要です。あとは学費ですよね。決して安い金額ではありません。これらをクリアできなくて、入学を諦める方もいると、石山先生もおっしゃっていまいた。もし、これらをクリアできていて悩んでいるのであれば、ぜひ進んでみてください。

石山教授 大学院って、どこか怖い、高いハードルのように見えるかもしれません。でも、学生は皆さんと同じケアマネさんなので、大丈夫です。入学後は、教員も一緒にサポートしていきます。

教育と研修は違うんです。大学院教育は、教員と学生が互いに責任を持ち、覚悟を決めて、一緒に努力していくプロセスなんです。同期の院生同士、院生と教員は一緒に学ぶかけがえのない仲間になると思います。

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