災害時のケアマネジメントとは?―被災したケアマネが提言

1万5897人の死者が出た東日本大震災の発生から8年余り―。東北初の開催となった「第18回日本ケアマネジメント学会研究大会」では、「災害時のケアマネジメント」をテーマにしたシンポジウムが開かれた。介護保険制度創設後に起こった東日本大震災では、高齢者の安否確認などでケアマネジャーが奮闘した。この教訓はどう生かされるべきなのか。シンポジストの発言から考えてみたい。


6月8日に東北大で行われたシンポジウム

シンポジウムでは、岩手県・陸前高田市地域包括支援センターの佐藤咲恵さん、宮城県ケアマネジャー協会の真籠しのぶさん、同県・大崎市社会福祉協議会古川支所長の桑折由理子さん、福島県介護支援専門員協会顧問の千葉喜弘さんの4人が、それぞれの経験を基に災害時のケアマネジメントについて問題提起した。

■発災翌日に集合!事前取り決めも

マグニチュード9.0の巨大地震が三陸沖を襲ったその時、佐藤さんは、岩手県大船渡市でケアマネ向けの研修を受けていた。発災後、研修は中止となり、陸前高田市地域包括支援センターで働いていた佐藤さんは、地区の対策本部へ向かった。

「目の前で起きる出来事にひたすら対応するのみで、ケアマネジメントというよりは、災害をどう乗り越えてきたかということになると思う。避難所での対応、救護活動、地区内の避難所の巡回、要介護高齢者の相談対応に忙殺されていた」。佐藤さんはこう振り返った。

一番大変だったのが、情報の共有だった。「電話が通じない中、ケアマネに口コミで、『3月23日に老健のここに集まっていただきたい』と言って、連絡会議をしたこともあった」という。

震災時に通信が途絶えた教訓を生かし、同市地域包括支援センターでは現在、ケアマネと介護サービス事業所との間で取り決めをしている。通信が不能となり、状況の把握ができないほど大きな災害が発生した場合は、翌日の午後2時に市役所保健課に集合するというものだ。

「途中で危険がある場合は、『無理をしないでください』と言っているので、強制力はないが、情報共有のために集まりましょうという申し合わせをしている」と、佐藤さんは話した。

■「やっていないことは災害時もできない」

一方、宮城県東松山市では震災後の約1カ月半の間、市内のケアマネは担当する利用者の支援、県ケアマネジャー協会の呼び掛けで集まった市外のケアマネは避難所の高齢者アセスメント調査と、役割を分けて支援を行った。

宮城県では、法定研修や地域の事例検討会などの教材として、共通のアセスメント票と課題検討マニュアルが使われており、避難所のアセスメント調査の際もそれが活用された。アセスメント票には、調査を担当したケアマネが決めた対応方針を記入。これを地域包括支援センターが引き継ぎ、関係機関につなぐ運用にしたという。

支援の必要性を判断する際は、「根拠のある判断」を心掛けた。当時、地域包括支援センターの職員として、ケアマネのサポート役も務めた真籠さんは、「災害時だから、大変だから、『支援はやってあげるものだ』という考え方ではなく、例えば、『福祉用具を使えば改善できる』とか、『このままでは悪化の危険性があるから運動しましょう』というように、自立に向けて根拠のある判断をするようにした」と強調した。

震災の経験を踏まえ、真籠さんは災害時の備えとして、研修の積み重ねの重要性を訴えた。「当たり前のことだが、普段やっていないことは災害時もできない。普段からアセスメント力、課題分析力を磨き、(自分の事業所の)立ち位置を見つけること。そのための研修の場が少ないのならば、自ら声を上げて場を作ったり、積極的に参加したりする姿勢が大事だと考えている」。


発表後に行われたディスカッションの模様

ケアマネの災害支援、基礎資格が強みに

東京電力福島第1原子力発電所の事故にも見舞われた福島県では、震災発生から2カ月後の11年5月、▽県介護支援専門員協会▽県社会福祉士会▽県医療ソーシャルワーカー協会▽県精神保健福祉士会▽県理学療法士会▽県作業療法士会―の6団体による「相談支援専門職チーム」が結成され、福祉的な援助を必要としている被災者への相談支援などを行った。

きっかけとなったのは、県内最大規模の避難所となっていた複合施設「ビックパレットふくしま」(郡山市)での出来事だった。同施設は閉鎖される約5カ月半の間、最大約2500人が身を寄せ、他県からも多くのボランティアが訪れたが、支援者が短期間で入れ替わる中、行政側が混乱するケースもあったという。

また、福祉分野の支援の“特異性”による問題もあった。例えば、軽度の認知機能障害パニック障害高齢者がいても、災害時では、身体に問題がなければ、対応が後手に回りがちだ。「相談支援専門職チーム」では、主にケアマネやソーシャルワーカー、リハビリ専門職が避難所を巡回し、そうした“声なき声”を丁寧に拾い上げ、地域の相談機関などにつなげた。

当時、県介護支援専門員協会会長として陣頭指揮を執った千葉さんは、ケアマネが支援に参加する利点について、地域の社会資源に熟知していることなどに加え、それぞれが持つ基礎資格を挙げる。「介護支援専門員は、看護師だったり、介護福祉士だったり、理学療法士だったり、薬剤師だったり、あらゆる職種がいる。その人たちがチームを組んだので、認知症への対応を含めて困ることはなかった」。

チームが活動した7年間で、支援を受けた人の数は延べ1万1312人に達し、期間中に参加登録した専門職649人のうち、ケアマネは285人に上った。

■震災の教訓、大崎市社協が「DCAT」発足

震災の教訓を生かした取り組みもある。宮城県大崎市の社会福祉協議会では、震災から2年後の13年11月、社会福祉士看護師介護福祉士、事務職員(有資格者)による「災害派遣福祉介護チーム」(DCAT)が発足。DCATは、15年9月の関東・東北豪雨の際、被災した市民の福祉ニーズの掘り起こしなどで活躍した。

関東・東北豪雨では、大崎市内を流れる渋井川の堤防が決壊し、同市古川地区が浸水被害を受けた。DCATではそれまで、災害を想定した訓練などを積み重ねていたが、実際の現場での活動はこの時が初めてだった。

災害が発生した翌日の9月12日、同市社協は、市の要請で「災害ボランティアセンター」を設置。DCATは3チーム(各5人)に分かれ、同センターと連携しながら被災者の訪問支援などを行った。

DCATの一員として活動した桑折さんは、「(災害後の)初期と中期で支援のニーズは変わる。その変わり目を見逃さず、時間の経過と共に支援計画を見直すことも大事だ」と指摘。その上で、「災害時は、普段サービスにつながっている方だけでなく、被災後に要支援となってしまう方へのケアマネジメントも迅速に求められる。個人だけでなく、家族全体を見ること。潜在的なニーズを探り、長いスパンで支援を考える必要がある」と話した。

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