世間では、恐ろしい事件や悲しい事件、残念な醜聞などが溢れていますね。情報発信するのも受けるのもモラル判断がつけにくいこの時代、自分で見る、聴く、判断するという能力はどのように変化しているのでしょうか。
今回は、いたって原始的な反応でコミュニケートする訪問先の犬、K君についてご報告します。 K君は番犬です。柴犬、オス、7歳。健康。
私は子ども時代、犬、猫、下手すると山から降りてくる鹿、といった動物と暮らす野生環境で育っていたため、無条件に犬猫に(私の方から)懐いていきます。こちらのお宅に訪問介入が決まった時は、K君の情報も真剣に聞き取りしてお伺いしました。
そして初回訪問、大きなお屋敷の正面玄関の横に、彼は怒り狂って現れたのです。犬は犬好きな人に懐く、を軽くあしらう、なかなか見たことのない形相、猛りっぷりでした。クサリというか重いチェーンで繋がれているのですが、ジャラジャラ鳴らして向かってきます。頭を撫でようとした私に、ご家族が「噛まれる!」と身を挺して制止。K君は、尻尾を踏んだ利用者様と足を踏んだお嫁様に噛みついていた経緯があったそうです。
知らない人は怖い、危険。範疇越えたら噛むぞ。知ってる人でも危害を加えたら攻撃。噛むぞ。ご飯や散歩の恩恵は、生命の危機の前には消え去るのでした。なんと迷いのないシンプルさ。 以後、ご家族はK君の周囲を歩くときは彼が安心できるように声をかけたり、必ず明るくして居場所を確認するなど配慮。そうして各傷害から2か月くらいで唸らなくなり、頭を撫でる手に怯えなくなったそうです。
利用者様は90代のご婦人ですが、噛まれた傷跡を見せてくれ、「Kは、大好きな家族が自分の尻尾や足を踏んで攻撃してきたので、訳もわからず心も傷ついたんだろう。可哀そうなことをした」と話してくださります。
K君の現実性にご家族が寄り添い、コミュニケーション量が戻ると、K君の愛情も復活してきて、相互の理解が深まるという、良い関係性作りを見せていただきました。そんな利用者様は、K君を「バカイヌ」「恩知らず」と呼んで、前よりも可愛がっているそうです。