4月26日、在宅のケアマネジャーと在宅医療に踏み出した若い医師を主人公とする映画「ピア まちをつなぐもの」の公開が始まる。2年前、新人の介護福祉士と認知症の入所者との交流を軸としたストーリーで大ヒットした「ケアニン~あなたでよかった~」のスピンオフ作品だ。今回、映画の舞台を施設から在宅の現場に移した理由について、企画・原作・プロデュースを手掛けた山国秀幸氏は、「在宅医療の実情に強い衝撃を受けたから」と語る。山国氏とケアマネ役を演じた松本若菜さんに話を聞いた。
―「ケアニン」は施設を舞台としたストーリーでした。今回、舞台を在宅医療の現場とした理由について、教えてください。
山国:「ケアニン」の制作のための取材で、在宅医療の現状を知り、強い衝撃を受けたことがきっかけです。
―何に衝撃を受けたのでしょうか。
山国:看取りの実情です。それから、ポリファーマシー(患者が必要以上に多種類の薬を処方され、何らかの有害事象が起こること)にも衝撃を受けました。
■看取りの実情に強い違和感を覚えた理由
―看取り、というと…
山国:「最期は自分の家で死にたい人がほとんどなのに、現実には病院で死ぬ人が大半」という実態に、です。
もう少し説明すると、かつては私自身、最期の時は病院で死ぬのが当たり前だと思っていました。自分が最後まで共に過ごしたいと考える家族や、大切にしたい場所が例えあっても、あきらめて病院のベッドで死ぬのが当たり前と思っていました。
(ピアの原作などを手掛けた山国さん)
ところが、「ケアニン」のために取材を進めていると、自宅で最期の時を過ごすことは、世界では、ごく普通のことだということがわかりました。それどころか、この日本だって、かつては自宅の畳の上で亡くなるのが当たり前のことだったということを知りました。
最後の時をがまんして過ごすのが当たり前と思っていたのが、ちっとも当たり前ではないことを知った時の驚きは大きかったですね。
さらに、日本国内でも家で最期の時を過ごすための体制づくりが進められていることも知りました。介護関係者はもちろん、病院も国も、家での看取りを進めるため、仕組みも用意しているのです。ところが、なぜだかいまだに多くの人が、病院のベッドの上で最期の時を迎えている。その点にこそ、大きな衝撃を受け、そして強い違和感を覚えたのです。
■「自分も『ピア』と共に、家族の看取りに加わりたい」
―在宅の中でも、特に医師とケアマネをクローズアップした理由は何でしょうか。
在宅での看取りを考えた時、医療と介護の連携は不可欠です。だから主人公には在宅医師とケアマネを据えたのです。
―そのケアマネ・佐藤夏海役を演じられたのが、松本さんでした。
松本:はい。劇中では、夏海は介護福祉士からケアマネにキャリアップしたわけなんですが…実は私自身、今回の映画のお話が来るまで、ケアマネの仕事がどんなものか詳しく知らなかったんです。「やっぱり、介護福祉士と同じように介護する人なんだろうなぁ」と思っていたくらいで。そして、脚本を読んでびっくり。あわてて、ケアマネの仕組みから勉強し直しました。
―なるほど。すると、撮影でもずいぶん苦労されたのでは?
松本:苦労しました(笑)。例えば、私と介護福祉士役の人、そして利用者さんがいる場面の撮影では、つい、介護福祉士の視点で「やることはないか、どう動くべきか」と考えてしまったりしました(笑)。
その一方で、ケアマネは本当にやりがいのある、すばらしい仕事だとも思いました。もし実際に、映画で登場したような医療・介護の専門職が集う「ピア」と巡り合うことができるなら、私も「ピア」と共に親や家族を家で看取りたいと思いました。
―「ピア」。とてもいい響きですよね。この題名にした理由を教えてください。
山国:実は最初は「始まりのターミナル」というテーマにしようと思っていたんです。しかし、取材しているうちに、違うと思った。少なくとも私は、そんな、たそがれた雰囲気は感じませんでした。
むしろ実感したのは、職種を超えた現場関係者の連携の強さ、絆の強さです。そこで、仲間という意味の「ピア」という題名を付けたのです。
■「医師が変われば現場が変わる。それを伝えたかった」
―しかし、ケアマネの中には医者との連携をなるべく避けたがる人もいます。また、医師の中にもケアマネや介護職種との連携の必要性をあまり認めない人も少なくはありません。
山国:その通りです。私も、その点こそを描き、訴えたいとも思いました。さらにいえば、両者の認識が変わることで、在宅の現場は大きく変わることを描きたかったのです。実際、大きく変わった在宅医療の現場も取材で見てきましたから。
だから主人公の医師は、最初、ひどく高い目線で在宅の介護を見下し、ケアマネと激しく衝突する構成となっています。
ちなみに、台本を読んでくれた医師たちは面白がってくれました、もっとも「こんなに直言してくれるケアマネは、たぶん、少ないだろうけどね。でも、これくらいの方がいい」と言ってくれました。
■激しい物言いに込めた志
松本:私が、そのズバズバいう役を演じたわけです。監督からも、「こんなこと、お医者さんにズバズバ言う人はいない」と言われるくらいに(笑)
(ケアマネ役を演じた松本さん)
山国:そう。彼女はしっかりと言い切ってくれました(笑)。例えば「職種の間に上下関係はありません。みんなプロだから」と医者2人を前にまくしたててくれてもいます。まあ、その場では、他の職種の方が「こんなことをいうケアマネは、彼女だけだよ」とフォローしてはいますが(笑)
松本:そこは志を持って、「みな、平等なピアだ」ということを考えながらお芝居していました。キツイ言い方ですけど、利用者第一だけを考えて、なんでも言ってしまう夏海を演じました。
■「成長と葛藤、共感してもらえれば」
―逆に言えば、ケアマネに対しては、医師だからと無用な遠慮は要らないというメッセージが込められていると考えていいですか。
山国:ケアマネへは、利用者を最優先してコミュニケーションを取ってほしいというメッセージを込めたつもりです。医師へのリスペクトは必要だと思いますし。
それから、取材して感じたことは、ケアマネって本当にすごい仕事だということ。なにしろ、利用者の生活をすべてみて、そして生活のすべてを整えるために、計画を練っているわけですから。
もっと、堂々と、その存在をPRしてほしいと思うし、その仕事に誇りをもってほしいです。今回の映画も、医師だけでなくケアマネさんも主役と言ってよいかと思います。ちょっと破天荒でキャラは濃いですけど(笑)。
松本:確かに、私が演じた夏海はちょっと破天荒かもしれないけど(苦笑)。できれば、ケアマネの皆さんには、一人の女性として、人間として、悩んで成長している部分を見ていただきたいですね。夏海の葛藤は、皆さんも抱えているものじゃないかなと思いますので。その点に少しでも共感してもらえれば、本当にうれしいです。
※「ピア まちをつなぐもの」の上映情報などは、こちら